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ベル麻痺(顔面神経麻痺)について
 ここに提示いたしますのは、ベル麻痺(顔面神経麻痺)の概観を理解していただくための一般向けの広報です。出典は、アメリカ合衆国のNIH(National Institute of Health)のなかのNINDS(National Institute of Neurolosical Disorder and Stroke)が一般向けのホームページに掲載した案内です。

ベル麻痺(顔面神経麻痺)

目次


1.ベル麻痺とは何か

2.症状について

3.ベル麻痺の原因は何か

4.どんな人が罹るのか

5.どうやって診断されるのか

6.どう治療するのか

7.予後について

8.どんな研究がされているのか




1.ベル麻痺とは何か

ベル麻痺とは、二つの顔面神経のどちらか一方の障害や外傷によって、一時的な顔面の麻痺が発生する病態です。第7脳神経とも呼ばれている顔面神経は、耳の奥にある頭蓋骨の狭い通路(ファロピアン管)を通過して両側の顔面筋に分布する一対の神経です。その神経走行の殆どは骨の殻に包まれています。

それぞれの顔面神経は片側の顔面筋を支配しており、瞬目や閉眼、笑顔やしかめっ面のような顔の表情を制御しています。その他にも顔面神経は、涙腺という涙の分泌腺や唾液腺、そしてあぶみ骨という中耳にある小さな骨の筋肉へ神経刺激を送っています。また顔面神経は、舌からの味覚刺激も伝達しています。

一旦ベル麻痺が発生すると顔面神経の機能が障害され、脳から顔面筋に送られる信号は遮断されてしまいます。この遮断の結果、顔面筋の脱力や麻痺が発生するのです。

ベル麻痺は、この病気を初めて報告したスコットランドの外科医、チャールズ・ベル卿の名前に由来しています。脳卒中とは関係のないこの病態は、顔面麻痺の最も多い原因となっています。ふつうベル麻痺は一対の顔面神経の片側だけに発生しますが、まれなケースでは両側に起こることもあります。

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2.症状について

顔面神経は多くの機能を持っており複雑な構造をしていますので、この神経へのダメージや機能障害は多彩な問題を引き起こします。軽い脱力から完全麻痺に至るまで患者それぞれに症状の度合いは異なりますが、ベル麻痺の症状には、顔面片側あるいは両側の引きつれ、脱力、麻痺、目尻と口角の垂れ下がり、よだれ、目と口の乾燥、味覚障害、涙の過剰分泌などがあります。こうした兆候の殆どは突然発症して48時間以内にピークに達し、著しい顔面の歪みを引き起こします。

その他の症状としては、下顎や耳介後部の痛みや不快感、耳鳴り、頭痛、味覚消失、患側の聴覚過敏、言語障害、脱力感、摂食障害などがあります。

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3.ベル麻痺の原因は何か

顔面の筋肉を制御している神経が腫脹し、炎症を起こし、圧迫されることによって顔面の脱力や麻痺が発生します。しかしこの障害の正確な原因については、まだよく判っていません。

多くの研究者は、ウィルス性髄膜炎やカゼ症候群を引き起こす単純ヘルペスウィルスなどの感染がこの疾患の原因と考えています。感染に対する反応として顔面神経が腫脹と炎症を起こし、ファロピアン管の内圧が高まって梗塞(血流や酸素が不足して神経細胞が細胞死すること)が発生するのだと研究者たちは考えているのです。軽い症例(回復は早い)の場合、神経のミエリン鞘にだけ障害が及びます。ミエリン鞘というのは、脳内の神経線維を包んでいる脂肪性の構造で、絶縁体として働きます。

この病気はインフルエンザやカゼ症候群、頭痛、慢性中耳炎、高血圧症、糖尿病、ザルコイドーシス、腫瘍、ライム病、頭蓋骨折や顔面外傷などとの関連が認められています。

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4.どんな人が罹るのか

ベル麻痺は、アメリカ合衆国では年間に約40000人が罹ります。男女等しく発症し、どの年齢層にも発生しますが、15歳未満と60歳以上ではやや少ない発症率を示します。妊娠女性、糖尿病患者やカゼなど上気道感染症の患者では、罹患率がかなり高くなっています。

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5.どうやって診断されるのか

ベル麻痺の診断は、障害側の顔貌の歪みや表情筋麻痺などの臨床症状に基づいてなされますが、顔面麻痺を呈するその他の病気の除外診断も必要です。この病気の診断を確定する特別な検査法はありません。

医師は一般的に、患者の顔の上半と下半の脱力を調べます。大半の症例では、この脱力が顔の半側や前額部、まぶた、口角に限定しています。筋電図(EMG)という検査によって、神経損傷の有無やその重症度と範囲を確定することができます。頭蓋骨のレントゲン検査は、感染症や腫瘍の除外診断に役立ちます。MRIやCTスキャンを行えば、他の原因による顔面神経への圧迫があるかどうかについて判別可能です。

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6.どう治療するのか

ベル麻痺を治癒させる基準治療法はありません。治療の最も重要な点は、神経障害の原因を取り除くことです。

ベル麻痺は個々の症例で大きく異なっています。症状が2週間以内に自然治癒していくような軽症例では、特別な治療の必要はありません。一方で、内服治療やその他の治療が必要な症例もあります。

最近の研究結果によれば、ベル麻痺に対するステロイドの使用は有効であることが示されています。また、ウイルス感染に使用するアシクロビルなどの抗ウィルス剤と、プレドニンなどのステロイド性抗炎症薬(炎症と腫脹を軽減する)の併用が、神経へのダメージを軽減、縮小し、顔面神経の機能回復に有効であることも明らかとなっています。アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなどの消炎鎮痛剤は、痛みを軽減します。薬物の相互作用の問題がありますので、投薬を受ける患者は医師とよく相談するべきでしょう。

治療におけるもう一つの重要事項は、眼球の保護です。ベル麻痺によって自然な瞬目運動が障害を受け、眼球は外的刺激と乾燥に晒されます。そうした理由から、目に潤いを与え塵や外傷から眼球を守ることは、特に夜間には、大切な事となります。人工涙液や眼軟膏の使用、眼帯の着用などが効果的です。

顔面神経を物理的に刺激して筋肉の緊張を維持することは、ある程度効果があります。顔面マッサージやエクササイズをすることによって、回復するまでの間、麻痺した筋肉が恒久的な拘縮(筋肉が委縮し短縮すること)に陥ることを防ぐことができます。患側の顔面に加湿した温風を当てることによって、痛みを軽減する助けになります。

個々の症例に役立つその他の治療法には、リラクゼーション法、鍼灸治療、電気刺激、バイオフィードバック法、神経の再生を促すビタミン類(ビタミンB6、B12、亜鉛)の投与、などが挙げられます。

ベル麻痺に対する神経減圧術(神経に対する圧迫を除去する手術)は、一般的に議論の多い治療法で、推奨することはできません。稀なケースですが、瞼が完全に閉じなかったり笑顔が極端に歪んだりする場合には、美容形成の手術が必要になることがあります。

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7.予後について

ベル麻痺の患者の予後は、一般的に大変良好です。神経障害の度合いによって、回復の程度に違いが出てきます。回復は徐々に進み、その時間には差異があります。治療の有無とは別に、発症から2週間以内に改善の認められることが大半で、殆どの場合には完全な回復を示し、3-6ヶ月以内には正常機能に戻ります。しかし一部の症例では、症状がもっと長く残る事があります。また少数の症例では、症状が永久に消えない場合もあります。大変に稀ではありますが、患側と同じかまたは反対側に、症状が再発することもあります。

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8.どんな研究がされているのか

連邦政府内の国立衛生研究所(NIH)の一部として国立神経疾患脳卒中研究所(NINDS)がありますが、ここではベル麻痺を含む脳神経系疾患についての研究を統括し推進しています。NINDSはメリーランド州ベセスダにあるNIH内部の研究所で研究を進めるほかに、全国の研究機関へ研究費を支給することによって研究支援を行っています。

いかに神経系のシステムが作動しているのかについて、また何が原因となってそのシステムの破綻が生じ機能不全に陥るのかについて、そうした問題の理解を深めるために、NINDSは膨大な基礎的研究の実践と支援を行っています。神経がダメージを受ける環境についてと、神経が損傷を受ける諸条件についての知識をさらに深めるため、こうした研究の一部は力を注いでいます。こうした研究から得られた知見は、科学者がベル麻痺の決定的な原因を解明するために役立っています。その結果、この疾患に対する効果的な治療法の発見につながるでしょう。その他のNIDSの研究は、障害を受けた神経の修復法や、損傷された領域の十分な機能回復を得る方法、また神経障害や損傷の発生予防などについての研究を支援しています。

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